人間の考えも、言葉も、事業も、すべてが砂の上に打ち立てられているのです。
今日は一つの目的に向かって走り、せかせかと突き飛ばし合い、卑劣なことをやり、おべっかをつかい、卑屈になり、落とし穴を掘るかと思うと、明日はもう昨日のことを忘れて、別な目的に向かって走るのです。今日一つのことに感嘆するかと思うと、明日は悪口を言うのです。今日は熱を上げて、優しくし、明日はもう冷たくなるのです……いやいや! 人生は見るも恐ろしく、いまわしいのです! それなのに人間どもときたら!……
『平凡物語』(下)岩波文庫P47
僕は魂の安静と眠りより他には、何も望まず、求めていません。僕は人生の空虚さと、みすぼらしさを残り無く味わってきて、腹の底から人生を軽蔑しています。生きて物を考えた者は、腹の底で人間を軽蔑しないではおれません。僕は、活動も、奔走も、心配も、慰安も、すっかり飽き飽きしました。僕は何一つ手に入れようとも、探そうとも思いません。僕は目的を持ちません。なぜなら、自分が迷って、手に入れようとするものは、何から何まで幻だと覚っているからです。
『平凡物語』(下)岩波文庫P261
幸福というものは幻想と、希望と、人間への信頼と、自信と、それから愛と友情から出来ているのです……
『平凡物語』(下)岩波文庫P272
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