西水美恵子氏の著作『国をつくるという仕事』のあとがきで、
社会起業家フォーラム代表の田坂広志氏は、リーダーシップの原点を「共感」と指摘する。

職場であれば、部下に対する共感。
起業であれば、社員に対する共感。
国家であれば、国民に対する共感。

ひとくちに「共感」と言っても漠としていて分かりにくいが、
それを「憐憫」「同情」と比較してみると分かりやすい。

「憐憫」と「同情」は「共感」と似ているようで全然違う。

この二つの言葉には、他者と自己を分ける、分離がある。
相手を憐れみ、相手に同情するとき、我々は無意識に、相手と自己を切断している。

「共感」は違う。

いま、目の前で悲しみ、苦しみ、孤独の中にある人間を、自分の姿として見れること。
もし、この世に生まれてくるとき、何かがわずかに違ったならば、自分がその境遇に生まれたのではないか。
ほんのわずかな偶然が、相手と自分の人生を分けたのではないか。
その思いを抱く時、そこに、「共感」が生まれている。

そして、歩み始める。
この世界を変えるための道を。
「行動力」と「ビジョン」、「勇気」と「信念」とをもって。

「行動力」や「ビジョン」「勇気」「信念」などはリーダーの資質とよく言われるが、
これらは備わっているものというよりも生まれるもの、リーダーとなるための「条件」ではなく、「結果」なのである。

この不条理に満ちた世界を変えるために、思いを定め、願いを込め、ひとつの道を歩み始めるとき、
同時に「行動力」「ビジョン」「勇気」「信念」は萌芽し始める。

リーダーの原点が「共感」と理解したとき、この日本という国に真のリーダーが生まれない理由を知る。

本屋に行けば、リーダーになれることを謳う幾多の本があふれている。
その大半は、いかに部下や社員、人々を動かせるかというリーダーシップ論である。
リーダーシップを発揮しなければ、仕事が進まない。
リーダーシップを学べば、人生に成功できる。
リーダーシップを身につけて、多くの人々を動かしたい。
そういった、「自己の願望」から発するリーダーシップ論である。

こうした「自己の願望」から発するリーダーシップは「他者への共感」から発するリーダーシップとは
似て非なるものである。
その自己中心性と操作主義のゆえに、必ず壁にぶち当たる。
そのような「リーダーシップ」からは決して真のリーダーは生まれてこないのである。